
『マネー・ショート』ラストの「水」と、2015年デリバティブ再登場の意味を読み解く
はじめに:ラストのテロップは「ハッピーエンド」じゃない
『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のラストには、印象的なテロップが2つ出てきます。
- マイケル・バーリはファンドを閉じ、その後は「水」関連にだけ投資している
- 2015年、ウォール街の銀行は、名前を変えた新しいデリバティブ商品を再び売り始めた
この2つは、
「危機は終わっていないし、構造もほとんど変わっていない」
という映画からのメッセージになっています。この記事では、
- 「水」の投資が何を意味するのか
- 2015年に復活したデリバティブ商品とは何か
を整理して解説します。
映画ラストの「水」投資は何を意味しているのか
テロップの内容
エンディングのテロップでは、概ね次のようなことが書かれています。
- バーリはファンドを閉じた
- その後は、「水」関連の投資だけに絞っている
映画だけ見ると、「水関連株を買っているのかな?」くらいに見えますが、実在のバーリはもう少し広い意味で「水」を捉えています。
バーリの考える「水投資」とは
インタビューなどでバーリは、だいたい次のような趣旨の説明をしています。
- 水不足は、これから世界的に大きな問題になる
- しかし「水そのもの」を売買したり、水利権を転がす投資は、政治的・法的な問題が多く、自分の好みではない
- そこで注目しているのが、「水を大量に使う農作物と農地」
- 水が豊富な地域で作物を育て、水不足の地域に出荷する
- 食べ物の中には「仮想的な水(バーチャルウォーター)」が大量に埋め込まれている
つまり、バーリにとっての「水に投資する」とは、
水道株を買うというより、 水資源の豊かな土地での農業・農産物ビジネスに投資すること
というイメージに近いです。
具体的に、どの銘柄・どの土地にどれだけ投資しているかは、すべてが公開されているわけではなく、細かい中身までは分かりません。 ただ、
- 「水不足が大きなテーマになる」
- 「水を食べ物を通じて運ぶ」という発想で投資している
という方向性は、本人の発言から読み取ることができます。
映画としての意味づけ
映画の文脈では、ラストの「水」テロップは単なる近況報告ではなく、
バブル崩壊を見抜いたバーリは、次の構造的リスク(世界的な水不足)をすでに見ている
というメッセージになっています。
多くの人がリーマンショックの後始末で苦しんでいる一方で、 バーリは「次の大きな歪み」に目を向けている。
観客への「次は水かもしれない」という、不穏な予告のような一文です。
2015年に復活した「デリバティブ商品」とは何か
テロップが示す事実
もう一つのテロップは、おおまかに言うとこうです。
- 2015年時点で、銀行は再びCDOを売り始めている
- ただし、“Bespoke Tranche Opportunity(BTO)” という新しい名前で
ここでポイントになるのが、名前こそ変わっていますが、構造はCDOとよく似ているという点です。
そもそもCDOとは?
CDO(Collateralized Debt Obligation)は、
- 住宅ローンや社債など、さまざまな債権を「プール」にまとめ
- そのプールを、リスクの高さごとに**トランシェ(層)**に分けて
- それぞれを投資家に売る
という仕組みの金融商品です。
2008年の金融危機では、
- サブプライム住宅ローンを大量に詰め込んだCDO
- その派生形の「合成CDO」
が巨額の損失を出し、システム全体を揺るがしました。
Bespoke Tranche Opportunity(BTO)の中身
危機後も「カスタムメイド型のCDO」は形を変えて残り、 2010年代半ば以降、「Bespoke Tranche Opportunity(BTO)」という名前で再登場します。
特徴を整理すると:
bespoke(ビスポーク)=オーダーメイド
- 特定の投資家向けに、組み込む債券・ローン・クレジットデリバティブをカスタマイズ
トランシェ構造はCDOとほぼ同じ
- 「何%〜何%の損失部分を引き受ける」という形でリスク・リターンを設計
中身は住宅ローンではなく、企業向けクレジットが中心
- とはいえ、「プール+トランシェ」という仕組み自体はCDOと共通
要するに、
名前は変わったが、 「リスクを束ねて分割し、高利回り商品として売る」という発想はそのまま
という商品です。
映画がそこに込めた皮肉
映画がラストでBTOに触れているのは、
- あれだけの大惨事を引き起こしたにもかかわらず
- ウォール街は、数年後には似たような構造の商品を、別名で再び売り始めている
という皮肉を示すためです。
「CDOという名前は使わない。 でも、やっていることは本質的に変わっていない」
という状況を、一文で突きつけています。
「水」と「新しいデリバティブ」が並ぶ意味
ラストの2つのテロップを並べると、対照的な構図が見えてきます。
1. バーリ側:構造リスクを見続ける視点
- 住宅バブルをショートして勝ったあとも、 バーリは「水不足」という次の構造問題を見ている
- 市場の歪みから利益を得た人物が、その後はかなり限定的な投資(=水)に絞っている
ここには、どこか「一歩引いた」ような距離感も感じられます。
2. ウォール街側:何も変わらない構造
- 銀行は、ほとんど処罰されずに生き残った
- 数年後には、名前を変えた高リスク商品(BTO)を再び作り始める
- 「儲かる仕組み」がある限り、同じようなゲームは何度でも繰り返される
映画全体のメッセージ
ここまでを踏まえると、ラストが伝えたいのは非常にシンプルです。
- 2008年の危機は「一度きりの事故」ではない
- それを生み出した構造は、ほとんど変わっていない
- むしろ次の危機の種(水不足や新たなデリバティブ商品)は、すでにまかれている
観客が、
「ああ、大変だったけど解決したんだな」
と安心して終わらせてしまわないよう、最後にわざと不穏な一文を置いて、 「この先も続きがある」と示しているエンディングだと言えます。
まとめ
- バーリの「水」投資は、水そのものよりも水を大量に使う農業・食料生産への投資という意味合いが強い
- それは、世界的な水不足という次の構造リスクへの長期的な視線を象徴している
- 一方で、ウォール街は2015年時点で、**Bespoke Tranche Opportunity(BTO)**という新しい名前でCDOに似た商品を再び売り出している
- 映画のラストは、「何も終わっておらず、問題の構造はそのまま」という冷ややかな現実を、観客に突きつけて終わる
この視点を押さえてから映画を見直すと、 ラストの数行が、かなり重たい意味を持っていたことがよく分かると思います。